東京高等裁判所 昭和25年(ネ)884号 判決
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人東京都知事に対し被控訴人が控訴人山本いく外五十二名に対し、昭和二十三年三年九日付を以て特別徴収義務者は地方税法上異議申立権なしとして、控訴人等の異議申立を却下したる決定を取り消す旨、被控訴人東京都に対し、(一)被控訴人に隷属する新宿区長岡田昇三が、控訴人等に対し特別徴収義務者として賦課したる昭和二十二年四、五月分の遊興税を原判決添付別表の通り修正する。(二)被控訴人が控訴人等に対し特別徴収義務者として徴収せしめたる昭和二十二年四、五月分の遊興税については、控訴人等が受任者として為したる委任事務の終了せし事実並びにその徴収に対する納税額が前記別表の通りなる事実を確認する旨、被控訴人両名に対し、訴訟費用は被控訴人等の負担とする旨の判決を求める。」と申し立て、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人が当審において、「本件遊興税徴収の経過を見るに、昭和二十二年四月控訴人等一同は同税の徴収を為すべきことを知らず、同年五月七日より徴収を開始し、同年六月自粛休業し、同年七月法令により休業となつたので、従つて控訴人等が遊興税を徴収したのは同年五月分丈であり、六月以降は休業の為め徴収せず、いわゆる委任事務は終了となつた。特別徴収義務者の負担する遊興税の徴収並びに納入の義務は被控訴人等の主張するように地方税法及び附属法令の規定により直接発生するもので、特別の授権手続を必要とせぬとしてもこの事は東京都と控訴人等との間に法律上当然に委任関係が設定されること(法定委任)を否定することとはならず、特別徴収義務者を以て受任者に非ずとする論拠とはなり得ない。」と述べた外、原判決摘示のとおりであるから、これを引用する。(証拠省略)
三、理 由
控訴人等の本訴請求中委任事務終了確認を求める点につき、左の如く附加する以外、当裁判所も原審と同一見解の下に控訴人等の本訴請求を認容し難きものと判定したので、ここに原判決の理由を凡て引用する。控訴人等が当審において提出する甲第四、五号証も右認定を左右する資料とはならない。
本件紛争の実体は、東京都新宿区長岡田昇三が控訴人等に対して控訴人等が特別徴収義務者として東京都に納入すべき昭和二十二年四、五月分の遊興税額が原判決添付別表(A)項記載のとおりであり、これを昭和二十三年二月七日を期限として納付すべき旨決定したところ、控訴人等は昭和二十二年四月分遊興税についてはその徴収に関する何等の通達を受けなかつたので、これを徴収すべきものなることを知らず、事実全然徴収しなかつたので納入の義務はない、又同年五月分は、同月七日以降徴収したけれども、実際の徴収額は右決定にかかる金額と異り別表(B)項記載のとおりであり、従つて都に納入すべき税額も右限度を出でないと抗争し、これが争の眼目である。控訴人等が客より遊興税を徴収して都に納入する関係は委任契約であり、同年四月分については委任契約成立せざる為これが徴収納付の義務なく、同年五月分についても既に徴収したる実際の税額以上に徴税の義務なき趣旨において委任事務は終了していると主張するのは、要するに控訴人等が徴収した別表(B)項記載の金額以上の納付義務なきことを主張する前提を為すものであり、その究極の目的は新宿区長の決定したる税額を争うことに帰着するのである。右税額の争を離れてかかる委任事務終了なる確認を求める実質的の意味はない。それ故既に控訴人等と被控訴人東京都との間に右納付すべき税額の確定が別に訴訟の目的となつている以上(かかる訴訟が許されるか否かは別とし)これと重複して前記委任事務終了に関する確認の請求を為すことは、法律上も事実上も何等利益の存しないこと明らかである。控訴人等が飲食店営業者として負担する遊興税徴収納入の義務は東京都との間の委任関係に基くものではなく、地方税法及び都条例の規定によつて当然発生するのであるから、委任事務終了の確認を求めることはその対象を欠き不適法たることは原判決説示のとおりである。(凡そ委任関係は契約によつてのみ発生し、法律の規定に基く法定委任なるものは存しない。)又控訴人等と東京都との間の遊興税徴収納付の関係を委任と解するや否やは別論とし、兎に角右税金の徴収納入に関する法律上の義務が終了し若しくは存在せざることの確認を求める訴旨であると解すれば、これは結局新宿区長の為した決定の取消変更を俟たず、行政行為の公定力に反してこれと異る権利関係を主張することとなり、許されないことは亦原判決の説示するとおりといわざるを得ない。いずれにしても委任事務終了確認の請求は失当である。
しからば控訴人等の請求は凡て認容し難く、これを排斤した原判決は相当であつて、本件控訴はその理由がないのでこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十五条に則り主文の如く判決する。
(裁判官 大江保直 梅原松次郎 奥野利一)